巨椋修(おぐらおさむ)の新世界

作家・漫画家 巨椋修(おぐらおさむ)のブログ。連絡先は osaogu@yahoo.co.jp

化け物屋敷物語 彼らは暗闇の中を疾走した


 おそらく我々が働いていたお化け屋敷ほど、お化けたちの運動量が多く、そして激しいお化け屋敷は世界のどこを探してもないに違いない。


 それほどうちのお化けたちはお化け屋敷内の暗闇を走りに走った!


 理由はカンタンだ。うちのお化け屋敷では、お化け役は待ち伏せをしていてA地点でお客さまを脅かし

 お客様が通り過ぎたらお化け役は、先回りをしてB地点で待ち伏せをして脅かす。

 最後に出口手前でお客さまが「あ、出口だ〜」と安心したところを最後のダメ押しで脅かす。

 つまり、お化けはその間、お客さまが10分弱かかって歩くお化け屋敷内の2〜3箇所を高速移動して脅かすというものであった。

 通常なら、お化け役はそう高速移動を強いられることはないのだが……




 



 あまりの怖ろしさのためか、走って逃げるお客さまが続出したのだ!!





(そりゃこんなのが暗闇から飛び出してきたら逃げ出すわ)


 そうなると、お化けはお客さま以上のスピードでダッシュをして待ち伏せ箇所に移動しなくてはならない!


 



それは文字通り暗闇の中を全力疾走することを意味するのだ!





 空調があるとはいえ真夏であり、また衣装を着込んだ姿である。





 お化けたちはお客さまを出口で襲った後、あまりの苦しさに酸欠で倒れそうになったり、めまいを起こしたりするくらいであった。

 あまり苦しそうなので人に頼んでスポーツ用酸素ボンベを買ってきてもらったものの、ところが酸素ボンベを使うには、ボンベについているマスクを口と鼻にあてがわねばならない。

 するとお化けの特殊メイクが剥がれてしまうため、あまり有効活用できなかったということもあった。


 さらに……、うちのお化け屋敷のウリは昭和の都市伝説口裂け女であり、口裂け女のトレードマークはトレンチコートにマスク、赤いハイヒールなので、この姿で全力疾走するのである。


 ただし、ぼくがお化け屋敷に来たのは開店3日目であったが、口裂け女はなんと裸足で全力疾走していたのである!



 理由はカンタンで、ハイヒールを履いて走り続けると高速移動がやりにくいのだ。

 まずスピードが落ちる。さらにハイヒールは足音がするので移動がバレる恐れがある。さらに足への負担が大きい。

 よって口裂け女たちは、ハイヒールは特別な日のみ使い、普段は裸足で疾走していたのである。




 しかも彼女たちが疾走しているのは、整理されたお客さまが通る場所ではなく、従業員が通る通路やバックヤードなのだ。

 そこには、機材や工具が落ちていたり、整理されていないものがゴロゴロしていたり、ネジクギが落ちていたりするような場所なのである。

 しかも、お客さまが通る場所以上に暗い。ときには従業員とお化けが激しく激突することもある。




 それを知ったぼくは、当然やめるように支持したが、彼女たちはなかなか聞かない。

 スニーカーでは口裂け女のイメージを損ねるというのだ。しかしぼくが

「そういうのが一番困る。いま根性を出してもらっても、万が一ケガでもされて動けなくなられたら、このお化け屋敷はたちまち立ち行かなくなる」

 と、強く説得してから、彼女たちは口裂け女のイメージを損なわないシューズを買ってきて履くようになったというエピソードがある。


 それでも生傷は耐えなかった。


 いや……、次々にお化けたちをケガが襲ったといっていい。


(つづく)