お化け屋敷のミステリースポットに立っているマネキンくんには、ほんと往生こいたわ。
そもそもコイツ!
こいつは、なぜかいつも上着が脱げやがるのだよ。
で、他のスタッフもコイツの近くにあまり寄りたくないもんだから
「屋敷長! またマネキンの服が脱げました〜! よろしくお願いします!」
なんていってくる人が結構いたのだよ。
中には、このマネキンの近くに潜んでいたお化け役の人が
「屋敷長、オレ、あそこの場所変えていただくわけにはいきませんかね。どうも寒気がしてきて……」
なんていってくる人もいたりしたのであるよ。
でもまあ、ぼくは割りと平気だったのね。お化け役をやってきたときなんか、マネキンの横に立ってじっとしていたら、お客さまが
「あ、これ、動くんじゃね? 動くんじゃね?」
とかいいながら、ぼくの目の前を通り過ぎていって、その後ワッと驚かしてみたりしたくらいだから。
ところが最終日が近づいてきたある日、スタッフが
「屋敷長、あの……、あのマネキンのズボンが脱げてしまっているんですけど……」
っていってきてさ。
で、マネキンのいる場所まで走っていくと、確かにマネキンくんのズボンが足首あたりまでずり下がってる。
お客さまがイタズラしたとかはあり得ないんだよね。すぐ近くにお化け役の人がいて、その通りを通り過ぎるまで、ずっと見ているんだから。
またお化け役やスタッフがイタズラしたとも考えられないんだよ。
お化け役やスタッフ自身がその通りに入るのを嫌がっていたから、服が脱げたときぼくを呼ぶくらいなんだから。
まあそんなことがありながら、いよいよお化け屋敷最終日1日前。
いつも感じていた幽霊がいるような気配がその日はなかったんだよね。
ちょうどその日、女流怪談師の牛抱せん夏さんの妹、口裂け女せん夏妹がお化け屋敷の中や外を
ウロウロと徘徊してたのよ。
で、口裂け女せん夏妹に
「きょうは幽霊とかいないね。気配がないもん」
って声をかけたら
「へえ、そうかい。あたしはそうは思わないけどね」
っていいやがるの。
そしたらしばらくして、またスタッフが
「屋敷長! また例のマネキンのズボンが脱げてしまいまして……」
っていっていたのね。
仕方ないなあって思って、マネキンのところまでダッシュしていったら、確かにまた脱げてる。
「しょうがねえなあ、おまえは最後の最後まで世話をやかせやがるんだから」
ってマネキンに文句をいいながら、ズボンをはかせてあげたのよ。
あ、マネキンにズボンをはかせるってね。ちょっと体の不自由なご老人の介護で、ズボンをはかせるみたいな感じで、マネキンにかなり密着してはかせるのね。
で、ズボンをちゃんとはかせてあげて
「もうおまえともお別れだな」
っていって離れようとしたら
マネキンがぼくの服をつかみやがってさ!
いやホント。
10秒くらい
あのね、10秒ってすごく長い時間なんだよね。
正確にいうと、服をつかまれていたんじゃなくて、マネキンの手がぼくの上着のポケットにひっかかっていたんだけどね。
これがはずそうとしても外れないんだな!
マジで!!
なんとか悪戦苦闘してたらやって外れて、ぼくはマジマジとマネキンくんの顔を見た。
なんかコイツもお化け屋敷が終わるのが寂しいだなと思ったね。
そんなことがあった最終日1日前でした。