巨椋修(おぐらおさむ)の新世界

作家・漫画家 巨椋修(おぐらおさむ)のブログ。連絡先は osaogu@yahoo.co.jp

井上円了の妖怪学


井上円了という明治の学者がいる。東洋大学の創設者であり教育者であった。

円了は「お化け博士」「妖怪博士」などと異名をとった人なのだが、いわゆる「オカルト好き」というよりも、むしろ」世の中の摩訶不思議を研究、解決することによって科学の発展を図った人であった。

円了はいう。


「妖怪の5割は偽怪、3割が誤怪、2割が仮怪である。この3種は科学的説明ができ、真怪の研究によって宇宙絶対の秘密が悟得できる」


そもそも超常現象を実現化してきたのが「科学」というものなのだ。

ライト兄弟が飛行機を発明したのは約100年前だが、それ以前に人が空を飛ぶといえば、魔術の類いで、下手をすれば魔女狩りにあって焼き殺されていたかも知れない。

約140年前、グラハム・ベルが電話を発明する以前に、遠くの人と会話をするといえば、やはり魔術の世界であり、下手をすれば魔女狩りにあって焼き殺されていたかも知れない。

ちなみに、魔女狩りは1970年くらいまで、アメリカの迷信家が現実に行なっていたことで、何も中世の記録ばかりではない。

有色人種を虐殺することで有名なアメリカのKKK団は、元々魔女(異教徒のことでもある)を狩る集団で、プロテスタント信者がカトリック信者やユダヤ人を虐殺したことから歴史がはじまっているのだ。

げに恐ろしきは、無知なオカルシストということか。


井上円了は、そういった迷信を打破したかったに違いない。

そういった意味で、21世紀に生きるぼくもそういった迷信を打破したい。

現実にはオカルトのある部分が、精神障害現象であることが少なくない。

もしその病気が統合失調症であるならば、オカルトでいうところの除霊だの浄霊だのでは治らない。

治るとしたら、軽度のノイローゼ(神経症)程度であろう。

病気は何事も早期発見早期治療が大切だが、オカルト好きのお母さんなどが、統合失調症の我が子を霊媒師に頼んで、なかなか治療をせずに、手遅れになってしまうという例がたくさんあるのだ。


また、統合失調症の人の発症前の傾向として「魔術思考」(マジカルシンキング。テレパシーや念力、予言や霊現象を頭から信じてしまう思想)や「世界没落体験」(人類滅亡などを信じてしまい大変な恐怖に怯える)というものがある。

またこの病気の特徴としては、幻覚や幻聴というものがある。いわゆる「悪魔の声が聞こえた」という奴だ。

あるいは「誰かが自分の悪口をいっている。自分にはその声が聞こえる」

とか「テレパシーや電波、電磁波で悪口をいっている」

「秘密組織がいつも自分を見張っている」といった類いのものだ。

前述した「世界没落体験」とユダヤ民族などの「陰謀論」が合わさって出てくる場合もある。

統合失調症は100人に1人がなる病気であり、決してめずらしいものではない。

おそらく病院にいかない程度の人だと、はるかに人数が多いと思われる。

統合失調症以外では、重度のうつ病覚せい剤やアルコールといった薬でも依存症になれば同じような症状がでる。

あるいは3日4日寝ないでいると、同様の幻覚があったりする。

もしそのような症状がある人は、早めに病院にいったほうがいい。

これは案外、切実な問題だったりするのだ。

日本では年間3万人以上が自殺するが、その7割が精神疾患なのだ。

その中には、本当は精神病で、ちゃんと治療すれば治るのに、そうしないで「悪霊がとりついている」「先祖のたたり」などと言われ、ついには治るものも治らずに自殺に至るということも少なくないのである。


これはちょっとシャレにならない。


また……、困ったことに、病気が本物であったり、重度であればあるほど、自分が病気だとわからないのだ。

そういう傾向のある人が「わたしはキ●ガイじゃない!」とか「わたしを狂人扱いしないで!」と怒り出したら、ちょっと用心したほうがいいのかも知れない。