巨椋修(おぐらおさむ)の新世界

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日ユ同祖論について


日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)


●日ユ同祖論は皇国イデオロギーと日本人のコンプレックスから生まれた

日本人とユダヤ人の先祖は同じである」という説を日ユ同祖論という。これを最初に言い出したのは、日本人でもユダヤ人でもなく、スコットランド人のノーマン・マクラウドという人物が言い出した説である。


 このノーマン・マクラウドなる人物のことはよくわからない。一説にはイギリスでは売買を商っており、日本や韓国では宣教師として活動ながら「イスラエルの失われた十支族」を探していたという。


 マクラウドが日ユ同祖論を展開したのは、イギリスに元々あった「イギリス・ユダヤ人同祖論」を日本とユダヤに当てはめたものであるらしい。内容は、日本の天皇、宮家、公家の儀式とユダヤ教の儀式が似ているからというものであった。ちなみにアメリカの黒人は「イスラエルの失われた十支族」である説。ネイティブアメリカンは「イスラエルの失われた十支族」である説。韓国人は「イスラエルの失われた十支族」などなど世界中にあるらしく、特にめずらしいものではないようだ。


 日本の場合、ノーマン・マクラウドの講演を聞いた日本のキリスト教指導者数人が、明治から昭和初期にマクラウドの説をさらに解釈を加えて日ユ同祖論を作っていったらしい。


 なぜか?


 明治〜戦前の日本はまだまだ二等国だと思っており、なんとか一等国に欧米のキリスト教国に思ってほしかったのである。そして日本は偉大な国であり、神の国であると日ユ同祖論者は口をそろえる。


 例えば、「日本は神の国である。ゆえに蒙古襲来の神風から日清日露戦争にいたるまで負け知らずであったのは、我々日本人がユダヤ人と同じく神に選ばれた民だからだ」


 とか、「旧約聖書に数か所「日の出る所から、その沈む所まで」という聖句があるが、この中の「日の出る所」とは地球の中央であるエルサレムから一番東にある「日いずる国」である日本のことだ」


 とか、『日本は神に選ばれた国であり、日本民族は神に選ばれた民族である』といういわゆる神国ニッポンの皇国イデオロギーと同じなのである。


 当時、キリスト教国から差別を受けまた、劣等意識があった日本国および日本人にとって、キリスト教社会から迫害や虐待を受け虐められているユダヤ人に勝手に親近感をもって出てきたのが日ユ同祖論といっても良さそうだ。



ユダヤ人は日本人のことをどう見ているのか?

ユダア人研究でも有名な神戸女子学院大学の内田樹教授によると『エンサイクロペディア・ジュダイカ』という、全26巻におよぶ英語で書かれた百科事典がある。『エンサイクロペディア・ジュダイカ』は文字通り『ユダヤ人の百科事典』という意味で、その厖大な百科事典に、日本についてのことがどれくらい記されているかというと、0.009%、ページ数にしてわずかに2ページ程度であるという。


 日ユ同祖論に熱心な日本人には申し訳ないが、イスラエルを含む英語圏ユダヤ人は、日本や日本人にほとんど、あるいは実質この程度しか関心がない。


 Wikipediaによると、一時滞在も含めて日本に住んでいるイスラエル国籍者は802名(2005年末)であるそうな。ユダヤアメリカ人など他国のユダヤ人を含めると2000人ほどいるらしいが、極めて少ないといっていいだろう。よって日本にユダヤ教シナゴーグ(集会所)もほんの数か所しかなく、そして開国してからあまりユダヤ人は日本に住みつかず、もっといえば第二次世界大戦前に日本に横浜や神戸、長崎にあったユダヤ人コミュニティーも、戦後になるとみんなアメリカに移住しちゃってなくなってしまうありさま。


 どうやらほとんどのユダヤ人にとって、日本については関心もなく、また世界のあらゆるところに移り住んだユダヤ人だけど日本はあまり魅力的ではないのかも知れない。


私家版・ユダヤ文化論 (文春新書)

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●日ユ同祖論とユダヤ陰謀論の矛盾

「日ユ同祖論」信望者はなぜか「ユダヤ陰謀論」も信じるらしい。


 本来、「日ユ同祖論」と「ユダヤ陰謀論」は矛盾する論なのだ。なぜかというと。「日ユ同祖論」は日本人にとって、「世界的に優秀なユダヤ人と日本人は同根である」という親ユダヤ論であり、いっぽうの「ユダヤ陰謀論」は、「ユダヤ人がフリーメーソン等の秘密結社をつかって世界を支配している」という反ユダヤ主義の考え方なのだ。


 この親・反ユダヤ論を両方を信じる心理とはいかなるものであろう。それを信じる人は、やはりそれほど「ユダヤ」とか「イスラエル」に関心がないのかも知れない。


 そういえば「日ユ同祖論」「ユダヤ陰謀論」を信じる人から、パレスチナ問題について語るのを聞いたことがない。


 そしてそこから垣間見えるのは、やはり一種の劣等感なのだ。なぜか? 


「日ユ同祖論」は「選ばれた民、選ばれた国」という『自分たちは特別』という自己承認欲求が垣間見える。自己承認欲求が強い人というのは、自分に自信がなく、しかし自分を誰かに承認(認めて欲しい)と欲している人のことだ。


ユダヤ陰謀論」の場合、世界は一部の権力者によって支配されており、自分はその被支配されている側であり被害者なのだという意識。さらに陰謀論のような人が知らない特別なことを知っている特別な自分に酔うことができる。


 つまり両方とも『自分たちは特別』と思うことができるのだ。これは明らかに劣等感の裏返しである。


 ということで、「日ユ同祖論」と「ユダヤ陰謀論」も奇妙な論ではあるのだが、それを信望する人の心理もなかなかにおもしろい。




●ただし太古にイスラエル人が日本に渡ってきた可能性はある

 ただしだ。縄文時代イスラエルの失われた十支族が日本にやってきて定住したという可能性はある。


 事実として中国にイスラエル人がやってきたことは知られていて、いまだ数百人のイスラエル人が生き残っているという。


 たしかに古代ヘブライ文字とカタカナが似ていたㇼ、古神道ユダヤ教が似ていたりすることもある。


 ただ、もし失われたイスラエル人が、日本に渡ってきたとしたら、かれらは長い年月に末に、ユダヤ教を捨ててしまったか失ってしまったのであろう。


 それくらい、日本の宗教である神仏習合、いわゆる日本教と、ユダヤ・キリスト・イスラムの啓典の宗教は違うのだ。


 ゆえに、世界でもっと多いキリスト教徒が日本では1%以下しかおらず、世界で2番目に多いイスラム教徒もまた、まあほとんどいないのだから。



巨椋修(おぐらおさむ)


わたし(巨椋修(おぐらおさむ))が監督した映画『不登校の真実〜学校に行かないことは悪いことですか? 』DVDになりました。
精神科医不登校に携わる皆さんにインタビューをしており、問題解決のヒントになれば幸いです。
TSUTAYA』のドキュメンタリーコーナーにも置かれておりますのでご覧になってください。


●巨椋修(おぐらおさむ)の著書



ビックリ!おもしろ聖書物語 (リイド文庫)

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新版 丹下左膳

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巨椋修(おぐらおさむ)は陽明門護身拳法という護身術&総合格闘技の師範をやっています。

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