巨椋修(おぐらおさむ)の新世界

作家・漫画家 巨椋修(おぐらおさむ)のブログ。連絡先は osaogu@yahoo.co.jp

日本は近代化をするとき王政復古した不思議な国である




 日本という国は不思議な国である。いまから約150年前、日本はそれまでの幕藩体制を改めて、開国・近代化をはじめた。


 フランス革命や中国の文化大革命を見てもわかるように、多くの国では国の体制を改めるとき、前体制の大粛清や大破壊を行うことで近代化に進むものだ。


 しかるに日本は明治維新のとき、近代化を推し進めると同時に真逆のこと、すなわち「太古の体制を復活させよう」ばかり『王政復古』を行ったのである。



 幕末期、尊王攘夷の志士のリーダーたちは、必ずしも天皇を尊んでいたわけではない。彼らは天皇を『玉(ぎょく)』と呼び、いわゆる将棋の玉と同じく、この玉を取った側が権力を握れると考え、利用しようとしていただけであった。


 ついでにいうと攘夷(外国排斥運動)をするつもりもなかった。だからこそ、明治新政府が権力を握った途端、これまでのスローガンであった攘夷を廃し、開国してしまったのである。


 さらにいえば、旧権力者側への粛清もなかった。



(最後の将軍 徳川慶喜


 最後の将軍である徳川慶喜は維新後死罪になるどころか、サイクリングに写真、狩猟に油絵など趣味を楽しみまくり、正妻と2人の側室に10男11女を作るなど、エッチも大いに楽しんでおり、新政府から公爵の位と貴族院議員もやったりしているのです。



(最後の老中首座 板倉 勝静(いたくら かつきよ))


 慶喜の忠臣であり、最後の老中首座でもあった板倉 勝静は、土方歳三などと函館の五稜郭で最後の幕府軍の1人として新政府軍と戦ったが、この男も捕まったものの死刑にされるわけでもなく、後に釈放、人生を楽しんでいる慶喜のことを「あの男と行動を共にしたことを後悔している」といったが、自分も第八十六国立銀行(現在の中国銀行)を設立しており、人生を謳歌しているのだ。


 明治新政府は、廃藩置県、家禄、廃刀令、四民平等、国民皆兵制度と、旧権力者であった士族の特権を奪った。


 菊池寛の『明治文明綺談』によると・・・


明治5年の正月の調査によれば、士族の総数は40万8千戸、その家族を合わせれば190万人という大多数が、封建組織の瓦解と共に、深刻な生活問題に直面したわけである。


  しかも彼等は、今まで生活の本拠となっていた藩がなくなったばかりでなく、明治5年に発布された徴兵令のため、その本来の職能である軍役からもはなれることになり、いよいよその存在の意義を失うことになったのである。


 そのため各地で小規模の反乱や政府要人を狙った暗殺やテロが相次ぐが、ある意味『その程度』ですんだのは、元々多数の武士の生活が、超貧乏でありほとんどの武士が内職をしなければ食べていけず、武士ゆえに見栄を張らねばならなかったりして支出が多かったのが、その支出がなくなり、内職のみでも最低限食べていけたからであろう。


 ちなみに100石取りを現在のお金に換算すると、ざっと500〜600万円程度。


 50石だと250〜300万円程度。


 一番多い層が10〜15石取りの武士なのだが、これだと50万〜90万円程度の年収。ちなみに武士が禄をもらえるのは原則1人ですから、50〜90万円で家族を養うのは不可能なわけで、当然家族みんなで内職に精を出すことになる。


 絵師としても有名な渡辺崋山三河国田原藩の家老であったが、畳と建具の他は全部「質」に入っていると言うほどこれも貧乏であったといいう。(涙)


 そもそもヨーロッパや中国の支配階級は、数も少なく富と権力を独占し庶民と違い大変裕福であったが、日本の支配階級である武士は、富を放棄してしまったごとく一部の高級武士以外皆貧乏であった。


 大名たちも借金まみれで、首が回らず明治新政府廃藩置県を行ったとき、新政府が大名たちの借金を肩代わりしたのだが、2400万両もの額であったという。


 権力者がこんなに貧しいという国もめずらしいことであろう。


 ただ、知的階級も武士であったため、公務員になるものも多かった。明治維新の後に日本が急速に近代化に成功したのも、旧士族の活躍があったからといって過言ではない。


 明治後の日本は、アジアで横暴と猛威をふるっていた西洋列強を跳ね除け、大陸や南方諸島を手に入れ、巨大帝国を作ることに成功。


 しかし大日本帝国大東亜戦争に敗れたため、現在の領土となるが、敗戦後の復興もまた奇跡的なものであった。


 しかし、それでも日本の排他的経済水域の広さは世界6位。経済は世界の名目GDPアメリカ、中国に次ぐ第3位と決して小国ではない。

 日本というのはなんとも不思議な国である。





巨椋修(おぐらおさむ)拝