それはわたくし、巨椋修(おぐらおさむ)がまだクソガキだった頃のお話でございます。
当時、神戸の郊外に住んでおりましたわたくしは、友人と共に建設中の新興住宅街を探検しておりました。
その新興住宅街というのは、山を切り崩してできたところなのですが、当時はまだ建物はなく、基礎工事のみでございました。
わたくしどもは、その新興住宅街の一番地理的に低い場所におりました。低い場所には川が流れておりまして、そこから住宅街を見上げると、いかにも山を強引にきり崩して、つくったというのがわかるような急な坂道が見えています。
新興住宅の一軒一軒は、土台だけですので、瀬戸内海の段々畑のようにも見えるのです。
そして川の堤にはポッカリとマンホールの横穴があるではありませんか。
しかも子ども四つん這いで入れるくらいの大きさの……
そう…… 建設中の住宅街の下水道のためのマンホールです。
当然、そのマンホールは、激しい上り坂になっています。
オレたちは、マンホールの入り込み、チョロチョロと流れる水とツルツルと苔ですべるマンホールに入っていったのです。
もちろん、マンホールとはいえ、まだ住宅も建っていないところのマンホールですから、家庭からの汚水はありません。
オレたちは懐中電灯を手に、やたらに滑るマンホールを上へ上へと登っていきました。
おもしろいほど、真っ暗で傾斜の急はマンホールを数百メートルは登ったでしょうか?
滑らないように登るのはかなり大変でした。
一見まっすぐにみえるマンホールも、中に入って見ればゆるやかにカーブを描いているのがわかります。
なにはともあれ、必死に滑るまいと必死に登りに登って、行き着いたところは、ただのコンクリートの壁でした。
実は、ヒドイ思いをしながらもマンホールに入っていったのは、マンホールの終点がどうなっているのかが知りたかったのです。
それで行き着いたのはただの壁。
それでも結構満足でした。
そのとき先頭を進んでいたのは、わたくしでした。
後ろには友だちが4人くらい。
当然、帰りになるとオレが一番後ろ…… この場合は位置的に一番上にいることになる。
下は苔でつるつるのぬるぬるなワケで、油断したオレがつるりんと滑ってもだれからも攻められることはない。
ただ問題があるとすれば、わたくしが滑れば、次の奴に、そいつはまたその次の奴にぶつかるワケで、
ええ、わたくし、滑りましたとも(笑)
そしてご想像の通り、わたくしたちは、仲良く、そして勢いよく滑りに滑ったのです。
たまに微妙な段差があったり、カーブがあったりと、ものスゴイ速さと恐怖があって、いま考えてもよくだれも大怪我をしなかったものだと思います。
結局、オレたちは元いた川にポンポンと放り出されたんですけど、まるでB級映画のアクションシーンのような楽しい思い出でした。
しかしホント、ひとつ間違っていても誰か死んでたな。
子どもの頃ってけっこう、死と紙一重の遊びをやっていたように思います。
生きるも死ぬのも、運しだいかも知れませんね。
(にやり!)