巨椋修(おぐらおさむ)の新世界

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ルネ・カルトン 海水を薄めた水で50万人を救った話は本当か?


ルネ・カントン 1866年12月15日 - 1925年7月9日 フランスの生理学者、航空機産業の先駆者

 20世紀はじめ、ルネ・カントンというフランスの生物学者がいたそうな。ネットで広まっている話しによると


「1907年、初めてのクリニックをオープンしてから、血液の濃度まで薄めた海水を病人に輸血し、1910年までにフランス国内で約70ものクリニックを開け、50万人以上の命を救った」

 それも当時流行していたコレラチフス、リンパ腫など万病に効くといった勢いであったそうな。


 これは見て、思わず「?」と思ってしまった。

『血液の濃度まで薄めた海水を病人に輸血』というのは、まだわかる。なぜなら血液にわずかに塩分が入っていることは常識だし、研究中の人工血液にも塩分が使われていることも知識としては知っていた。

 疑問に思ったのは、感染症の心配はないのか? ということである。

 パスツールやコッホが細菌や病原菌を発見したのは、19世紀のことだから、生物学者なら細菌や病原菌が人間にとって、どれだけ怖ろしいかは知っているはずなのに、薄めただけの海水を輸血の代わりに注入するとは・・・ という疑問である。


 海水の中にはたくさんの微生物や細菌がウィルスいるはずと思って軽く調べてみると、『ビブリオ・バルニフィカス』という細菌についての説明がウキペディアにあった。


『1970年にヒトへの感染例が Roland らにより報告された、日本では1978年に症例が報告され、有明海八代海沿岸での発症報告が多い。ヒトに経口または創傷感染して感染性胃腸炎重篤な敗血症や中耳炎の原因になる。肝疾患や糖尿病などの基礎疾患がある場合や免疫低下状態にある者が、夏期に海産物を生食することにより発症すると考えられている。症状は敗血症や壊死性筋膜炎など、全身性の劇症型の致死性疾患の原因になる事がある。』


 もし、ルネ・カントンという人が、煮沸消毒なしに輸血代わりに海水を注入したとすれば、かなりの死者・重篤者が出たと思われる。

 しかしネットで拡散している文によると・・・



1907年、初めてのクリニックをオープンしてから、血液の濃度まで薄めた海水を病人に輸血し、1910年までにフランス国内で約70ものクリニックを開け、50万人以上の命を救った




 とある。


 ん〜・・・ わずか3年で70ものクリニックを作り、50万以上の命を救ったって・・・


 当時のフランスの事情はよく知らないが、医学大学があって医師免許もあっただろうし素人はなれない専門職であったはずなのに、わずか3年で70ものクリニックを開いたってことは、相当な資金がないとできないぞ。そのクリニックに医師1人、看護師1人雇ったとしても、大人気のラーメンチェーン店だってここまで急速には拡大できないぞ。


 50万人以上の命を・・・って、この時代のフランス総人口はおおよそ4000万人。えっと50万人を70のクリニックで診察したとしたら、3年間、一クリニックで7142人の命を救ったことになるな。もっといえば1日に6人くらいの人を救ったことになる。


 う〜ん、当時でも普通、診察して病名を決めてっていう手順を踏んでいるはずで、すべてのクリニックは相当に忙しかったであろうなあ、それとも、なんでもいいから点滴してたのかしら。


 そのカントン先生の海水療法が3年で終わってしまったのは、当時の医学界が「ただの海水で、病気が治っては儲からない」 からであるそうな。


 いやいやいや〜、これが本当なら儲かるって〜、だって材料費はただの薄めた海水だよ。


 薄めた海水にちょちょっと手を加えて、売れば大儲け間違いなし!


 いや低額で売っても大儲けができる。なんといってもチフスコレラといった現代でも致死性が高い病気が治るし、点滴という簡単な作業でできるのだから。


 しかしながら50万人も直したのなら、相当な記録が残っているはずなのだが、そういった記録は、前述したトンデモ的話ししか残っていないのはなぜだ? (例えば庶民の日記に残っていないのは実におかしい)


 とまあ、普通に考えれば誰でもが、大嘘だと気がつく穴だらけのカルトン先生の海水療法だけど、これがネットで拡散したのは、ネットであまり考えずに広めてしまった人とか、トンデモを信じたい人が深く考えなくて転載してしまったからでありましょう。

 
 で、この話しのソースを調べたら、第18回日本トンデモ本大賞を受賞したトンデモジャーナリストの船瀬俊介さんじゃないか(苦笑)。


 この人、とてもユニークな人で「市民の人権擁護の会」という精神医学に反対する団体の代表と本を書いたり陰謀論の本を書く人で、ちなみに「市民の人権擁護の会」は


『また団体はアメリカ同時多発テロ事件精神科医たちによって計画されたと主張し、そしてその精神科医たちが数十億年前の宇宙の大破壊を引き起こしたとも主張してきた
(「市民の人権擁護の会」より引用)


 と、精神科医が数十億年前の宇宙の大破壊を引き起こしたという、実に大胆な意見を発表しているところ。


 別に、この方の主張を信じるも信じないもアナタ次第ではあるけど、あまり間に受けないほうが利口そうだ。(苦笑)


 ちなみにアカデミックな学問では、地球は46億年前にできて、我々ホモサピエンスが生まれたのは約20万年前とされている。精神科医が数十億年前に宇宙の大破壊って・・・ いえ、信じるか信じないかはアナタ次第。




 ってことで、ルネ・カントンはおそらく実際に海水と血液が作り出そうとしたかも知れない。しかし70万人を治したとか、海水では儲からないから記録を消されたというのはデタラメと思って間違いない。


 おそらく現代医学に疑問を持っている人が創作した話しであろう。




 巨椋修(おぐらおさむ)拝

わたし(巨椋修(おぐらおさむ))が監督した映画『不登校の真実〜学校に行かないことは悪いことですか? 』DVDになりました。
精神科医不登校に携わる皆さんにインタビューをしており、問題解決のヒントになれば幸いです。
TSUTAYA』のドキュメンタリーコーナーにも置かれておりますのでご覧になってください。


●巨椋修(おぐらおさむ)の著書



ビックリ!おもしろ聖書物語 (リイド文庫)

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新版 丹下左膳

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巨椋修(おぐらおさむ)は陽明門護身拳法という護身術&総合格闘技の師範をやっています。

陽明門護身拳法のHPはコチラ。門下生募集中!
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