巨椋修(おぐらおさむ)の新世界

作家・漫画家 巨椋修(おぐらおさむ)のブログ。連絡先は osaogu@yahoo.co.jp

武力と平和

●人は戦争をする生き物である
 前回、極東はいつ世界の火薬庫になってもおかしくないと書いた。古代アテナイの歴史家トゥキディデスは、戦争の原因を『名誉』『恐怖』『利益』といったが、それは現在になっても変わっていない。


 日本がアメリカをはじめとする連合国と戦争をしたのは、中国大陸の利益をめぐってのことだった。その戦争に日本は破れ、その後日本は、戦争を放棄して現在に至っている。


 幸い日本はその後、表立って戦争に巻き込まれることはなかった。それどころかアメリカが作った憲法によって、朝鮮戦争にもベトナム戦争にも派兵することを免れ、むしろ朝鮮戦争ベトナム戦争による軍需景気で、敗戦後壊滅的だった日本経済は見事に復活した。


 そして20世紀後半には『進歩的知識人』と呼ばれる人たちが、愛国心を否定し、さらには「もしソビエトが攻めてきたら、抵抗せずにもろ手を挙げて歓迎すればよい」という人まで現れた。


 ちょうどいまジャレド・ダイアモンドの著作「銃・病原菌・鉄」という本を再読しているのだが、その上巻に興味深いことが書いてある。


 かつてポリネシアのチャタム諸島には、モリオリ族という狩猟採集民族が住んでいた。彼らは平和の民であり、もめ事があると穏やかに話し合いで解決するという方法をとっていたという。


 そこにニュージーランド北島に住んでいた農耕民マオリ族が、銃や棍棒、斧で武装し『モリオリ族はもはやわれわれの奴隷であり、抵抗する者は殺す』と告げながら集落の中を歩き回った。


 平和の民であるモリオリ族は、抵抗しないことに決め、友好関係と資源の分かち合いを基本とする和平案をマオリ族に対して申し出ようとしたが、その前にマオリ族はモリオリ族を襲い、女子供関係なく、ほぼ絶滅近くまで皆殺しにしてしまうということがあった。


 モリオリ族は2千人、マオリ族は900人であり、抵抗すれば勝てたかも知れない。しかし戦争を知らない民は、ただ一方的に虐殺されたという。



 これと同じような事例は、他にもある。当時人口1千万以上、軍隊も持っていたインカ帝国は、わずか180人のスペイン人に滅ぼされている。


 北米の先住民もまた、ヨーロッパ人に絶滅寸前まで殺され続けてきた。ちなみにインディアンは白人の頭の皮を剥ぐと言われたりするが、それを最初にやったのは白人のほうなのだ。


 チンギス・ハーンのモンゴル軍は当時の最新鋭の武器をもっていた。弩(いしゆみ)や投石機、火薬を使用して石や鉄の火球を撃ち出す大砲という当時最新の武器を手に、ユーラシア大陸で他民族を殺しに殺した。


 当時のヨーロッパはモンゴル軍を「タルタル人がくる」といって恐れたという。「タルタル」の語源は、ギリシャ神話の「タルタロス(地獄)」である。


 これこそが人間の所業。人間は戦争をする生き物なのだ。そのことを忘れては平和など語れない。



●戦争のはじまりは土地争いであった
 人間が誕生したのはいまから約20年前、農業や牧畜がはじまったのは2万年前あたりから。人間が戦争をはじめるようになったのは、農耕や牧畜をはじめるようになってからだと考えられている。


 アフリカで生まれた人間は、少しづつ世界に拡散していった。


 やがて人間南極を除く全大陸に住むようになる。この時代はまだ狩猟採集の時代であった。人間の群れは、20人から50人くらいの集団であり、その土地の食べ物や獲物が無くなると移動して暮らしていたという。


 やがて人間の数は全世界で400万人を迎えるころ、農耕がはじまったと言われている。狩猟採集は豊かな自然が必要であり、わずかに400万人が狩猟採集をする人間を養っていくのが限界出会ったらしい。


 そこで人間は農耕や牧畜を発明する。


 それは厳しい労働のはじまりでもあった。狩猟採集時代では、一日3時間程度で十分であったのが、農耕や牧畜は朝から日が暮れるまで働かなくてはならなくなった。



(ミルトン作『失楽園 楽園を追われるアダムとイヴ』旧約聖書に書かれている、失楽園の物語は、気楽な狩猟採集時代から過酷な労働を強いられる時代の記憶なのかもしれない)


 農耕や牧畜では、広い土地がいる。そこで土地争いがはじまるようになった。戦争のはじまりである。狩猟採集時代だと、人の群れと群れは滅多に出会わない。出会ったとしても、女を交換して別れればよかった。


 あるいは争いになりそうなら、その土地を離れればよかった。


 農耕をすることにより、富の格差が生まれる。富める者は貧しい者を支配下におくことができるようになった。その大集団が都市となり国となった。


 また、富を貯蓄することにより、多様な職業を専業する者が出てくる。芸術家や兵士も雇うことができるようなった。



●戦争をしないためには
 人間は戦争をする生き物だと書いた。では戦争をしない方法はあるのだろうか?


 かつてパクス・ロマーナ(ローマの平和)という時代があった。古代ローマにおける約200年間大きな戦争がなかった時代のことだ。


 パクス・ロマーナをもじって日本では、パクス・トクガワーナという時代がある。江戸時代は250年以上の長期平和が続いた時代のことだ。


 どちらも武力統治をおこなった結果である。


 残念ながら、前述したマオリ族とモリオリ族の例のごとく、ただ平和を願っていても平和でいられるとは限らない。


 日本最初の兵法書に『闘戦経』というのがある。残念ながらぼくはまだ読んでいない。



 そこには『「武」は秩序を生み出す力』といったような意味のことが書かれているらしい。
(参考:『最古の兵法書を読んでわかった、日本が中国・韓国と相容れない理由』)


 武力といっても強力な兵器だけでは現在では通用しないかも知れない。いまの時代の戦争はミサイルや砲弾のみではなく、情報をコントロールしたり、遮断するサイバー戦争も重要になる。なんでも北朝鮮のサイバー能力は“CIA級”の実力があるそうだ。



 日本のように専守防衛を旨としている国では、一般の兵器よりも、敵国の軍隊にハッキングし、ミサイルを発射させないようにしたりするのは有効かも知れない。


 戦争を避けるためには、それなりの武力は必要であろう。そして高度な政治能力も必要であろう。


 はたして日本はどうなのであろうか?




 巨椋修(おぐらおさむ)拝


わたし(巨椋修(おぐらおさむ))が監督した映画『不登校の真実〜学校に行かないことは悪いことですか? 』DVDになりました。
精神科医不登校に携わる皆さんにインタビューをしており、問題解決のヒントになれば幸いです。
TSUTAYA』のドキュメンタリーコーナーにも置かれておりますのでご覧になってください。


●巨椋修(おぐらおさむ)の著書



ビックリ!おもしろ聖書物語 (リイド文庫)

ビックリ!おもしろ聖書物語 (リイド文庫)






新版 丹下左膳

新版 丹下左膳

巨椋修(おぐらおさむ)は陽明門護身拳法という護身術&総合格闘技の師範をやっています。

陽明門護身拳法のHPはコチラ。門下生募集中!
https://youmeiyoumei.jimdo.com/


門下生募集中!お問い合わせは osaogu@yahoo.co.jp まで。