巨椋修(おぐらおさむ)の新世界

作家・漫画家 巨椋修(おぐらおさむ)のブログ。連絡先は osaogu@yahoo.co.jp

戦後漫画史と景気の関係その2


さて、前回で高度成長期末期に現れたスポ根漫画の最終回では、バッドエンドか寂しい終わり方がとても多いと書きました。

また、もしかしたらそれは、敗戦後の焼け野原から死に物狂いで働いてきた日本人が、60年代の終わりに世界第2位の経済大国にまで登りつめたとき、疲れてきたのではないか? とも書きました。


日本が世界第2位の経済大国になったのは、68年。

そして70年に行われた日本万国博覧会

このあたりまでは、日本人は明るい未来を信じていたのではないでしょうか?

明日は今日よりも良くなる。努力すれば報われる・・・、そう信じていたのかも知れません。

しかし70年あたりから、果たして本当に未来は明るいのだろうか? と、疑問も出てきたように思います。

そのころから、日本のSF小説などでは「人類ダメ小説」といわれる人間が地球を壊すような・・・、例えば公害や核戦争、自然破壊などで人類は滅びてしまうのでは? という作品が多くなってきます。

日本の漫画だと、スポ根漫画だけではなく、73年に完結した『デビルマン』では、主人公の恋人や友人たちが味方であるはずの人間たちに虐殺され、最後は悪魔サタンに主人公が下半身をちぎられて死亡するというショッキングなシーンで終わっています。

それは悪魔サタンが地球を荒らす人間に天罰を下すというストーリーでした。



(人間たちに首を切られてしまう主人公の恋人や友人たち漫画『デビルマン』より)



(そして人間の味方をしたデビルマンは、下半身をちぎられて絶命)


他には、人類滅亡後に学校ごとタイムスリップしてしまう、楳図かずおの『漂流教室』が72年〜74年に連載。


小説では73年に小松左京の『日本沈没』が刊行。

これらの作品は決して、未来は明るくないという作品たちでした。

この時代にアニメ化された『宇宙戦艦ヤマト』も、地球が放射能汚染されたという設定でした。


これらの作品が出ていた70年代前半の日本は、公害問題から70年に環境庁ができ、いざなぎ景気が終わります。


71年、ニクソンショック


72年、田中角栄日本列島改造論で土地の急騰。


73年、オイルショック


74年、実質成長率がマイナスになる。


75年、税収不足から1975年度から赤字国債が発行。


と、経済的にはあまりいいことがありませんでした。


それに連れて血の汗を流し、努力すれば報われるといったスポ根漫画は終焉し、スポーツ漫画では地味な天才、山田太郎が活躍する『ドカベン』(1972年から1981年まで連載)が人気となります。


また、73年あたりからオカルトブームが起こります。

73年発売の『ノストラダムスの大予言』はこれまでに200万部を超える大ヒットとなり、後にオウム事件にも影響を与えます。


漫画界では、つのだじろうの『後ろの百太郎』(73年〜76年連載)や『恐怖新聞』(73年〜75年)といった心霊漫画が大ヒット。


藤子不二雄は『魔太郎が来る!!』(72年〜75年連載)といういじめられっ子がオカルトの手法で、いじめる相手を次々に残虐な方法で復讐するという暗い話しがヒットしています。

70年代後半になると、スポーツ漫画では前述した『ドカベン』や『エースをねらえ』、ちばあきおの『キャプテン』などがありましたが、スポ根漫画と違い、努力はするのですが魔球のような必殺技などがないものが多くなります。
(『キャプテン』は72年〜79年の作品)


80年代になると、また景気が良くなってきます。

80年代には、『うる星やつら』(1978年連載開始)や、『翔んだカップル』(1978年連載開始)や、『タッチ』(1981年連載開始)といったラブコメ作品がヒット。

物語もハッピーエンドが基本となります。


また80年代のヒット漫画といえば『DRAGON BALL』(1984年〜1995年)『北斗の拳』(1983年〜1988年)といった作品がありますが、これらの作品は、次々と強敵が現れるというもので、これを漫画界では「ライバルのインフレ化」と呼んでいます。


90年代は、91年ごろバブル崩壊、92年にソ連崩壊という時代なのですが、漫画の内容が暗くなったということはあまり無いように思えます。

一方、世の中は漫画をはじめサブカルが爛熟した時代といっていいかもしれません。

おそらく、漫画というものは。この時代くらいにほぼいまの状態に完成したのではないでしょうか?


2000年代も、漫画界はそのままの流れで、より充実・成熟してきているのではないかと思うのですがいかがでしょう?




巨椋修(おぐらおさむ)拝