男にはときとして命を賭けてもやり遂げなければならないことがある。
これはオレと仲間たちが命を賭けてやり遂げた、ある事件のドキュメントである。
まだオレたちが20代前半だったころ、正月になると仲間があつまって酒盛りをするのが恒例だった。
飲む酒は「黒松剣菱」と決まっていて、飲み会は「剣菱会」と名付けられていたものであった。
その年は、オレの部屋に集まって「剣菱会」とりおこなわれることとなったのである。
当時オレが住んでいたのは中野坂上の四畳半のボロアパートであった。
その日の料理は鍋である。
冬の夜、仲間と集まって鍋を囲み、日本酒をやる。
日本人にとって、これほどの贅沢はないといっても過言ではあるまい。
しかし売れない漫画家であるオレの部屋には土鍋などというマトモな調理用具があろうはずもなかったのである。
あるのは、愛用のアルミでできたラーメン鍋ひとつ。
もちろん、ラーメン鍋でも鍋は鍋!
それでなんとかするのが我々である。
しかしもっと重大な問題があった。
鍋といえば、仲間が一つの鍋を囲んでこそ真の鍋といえる。
しかし……
オレの部屋にはアパート備え付けの、ガスコンロが一つ。
ホースの長さは30センチ。
ガスコンロを部屋の中心にあるコタツの上に移動するのは不可能である。
我々の決断は早かった。
「どこかで、ホースを調達すればいい!」
しかし……
ときは正月、どの雑貨屋も閉まっている……
我々の計算は早かった。
「どこかでホースを失敬しよう!」
そう…… 公園とか人様の庭で水撒き用の水道のホースでもいいから、失敬してガスホースの代わりに使えば、みんなで鍋を囲んで盛り上がることができる!!
そのときいたオレの仲間はみんな一流といわれている企業に勤めている一見、優秀に見えるようなヤツばっかりだったのだが、底抜け脱線バカであった。
我々はアパートを飛び出し、ホースを探すため夕闇せまる街を徘徊しだしたのだ。
そして……
あった。
しかもガスホースであった。
どこかのご家庭の軒下に水撒き用にと、ゴムホースの代わりに使っていたガスホースがあったではないか!
それも2メートルはある!それだけの長さがあれば、アパートの中央に持ってこれるではないか!
これぞ天の恵みをばかり速攻で失敬した我々はアパートに戻り、早速鍋を開始した。
そして事件は起きるのである。(続く)