巨椋修(おぐらおさむ)の新世界

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再録富山奇行13 最終回

※これは10年前、自主映画「不登校の真実」を撮ったときの日記。

久しぶりに読んだら面白かったのでアップします。(笑)




富山最後の夜が過ぎ、そして富山最後の朝がやってきた。

本日の予定は、KNB北日本放送の『かずいえなおき 朝市RADIO』という番組に生出演をすることのみで、出演が終わったら、そのまま東京へ帰るのみであるのだ。

さて、ラジオ出演というのは初めての経験である。

まして生放送というのも初めてである。

出演はオレと富山大学非常識講師のミヤカワ氏の二人。 ラジオ局には8時40分に来てくれとのこと。

このときも、休日の早朝に関わらずS高校のK先生が車で同道してくれる。
ありがたい話しである。
我々は全員、二日酔いであった。

我々は予定の時間よりも少々早く着いていた。
番組のキャスターの方々や、ディレクターやプロデューサーの方々とご挨拶をし、簡単な打合せをする。
その後は、生番組の進行をガラス越しの部屋で見ていた。

助監督アベは、この富山入りしてから度胸がついたのか、我々が番組に出ている間をカメラに収めたいという交渉をし、生放送中の収録場面を放送ブースの中に進入してビデオを回している。
思えば、富山に来てからアベもたくましく成長しているようである。

ふと、同行のK先生を見てみると、番組の責任者に、自分の高校の生徒を、放送局に連れてきて見学をさせてもらうわけにはいかないかと交渉をしている。
さすが教育者である。

しばらくして、またふとK先生を見ると、こんどはレポーターの女の子に声を掛けている。
今度はナンパをしているように見えてしまう。これだからマッチョなサワヤカ系は得をするのだ。(それに対してオレは、セクハラ大王である)

二日酔いのくせにさすがK先生である……、と、言っておこう……
二日酔いのくせに。







待ち時間が長い……




待ち時間が長いとロクなことは考えないものだ……











これから出る番組は生放送である。





するとあんなコトやこんなコトを、思わず知らず口走ってしまったら、えらいコトになるんだろーなーなどという不謹慎な考えがアタマをよぎる。









言いたい……









言っちゃダメだ……









言いたい……








言っちゃダメだ……








オレはコッソリと、みんなから離れ、人目につかない場所にあったゴミ箱にアタマを突っ込んで叫びまくった!














王さまの耳はロバの耳!

王さまの耳はロバの耳!

王さまの耳はロバの耳!

王さまの耳はロバの耳!

王さまの耳はロバの耳!








よし、これでダイジョーブだ!!

こんなこともあろーかと思って、前もって童話をいっぱい読んでおいて良かった。

これから社会の荒波に出ようという良い子たちは、今一度童話を読み直すことをオススメする。

そのおかげで、オレは無事に放送を済ますことができたのだ。

富山奇行最後の仕事を終えた我々をK先生、ミヤカワ氏に富山駅にまで送っていただき、一路東京へと走る特急電車へ乗り込んだのである。

富山奇行は、事件また事件の日々であった。

そして酒また酒の日々でもあった。

さすがに疲れていた。

アベは、疲れているオレに気を利かせてビールを買ってきてくれた。

正直いうと、しばらく酒は飲みたくなかった。

しかしアベの心遣いはうれしかった。

まだ二日酔いがとれていないのだ。
もっと正直に言えば、ビールなど見たくもなかった。

飲み干したオレに、アベがさらに気を利かして言った。

「先生、もう一杯いかがです?」

このときオレは、ふと気がついた。


アベの目が、悪魔のように笑っている。


アベはオレが二日酔いなのを知っているのだ。



これは奴隷扱いをしたオレへの復讐なのだ。



ここでオレがビールは、「もういいよ」と言えば、アベのことだ。
「遠慮はしないでくださいよぉ」
と、にこにこしながらビールを買ってくるに違いない。

そして二日酔いに苦しむオレにムリヤリ酒を飲まそうとするであろう。

そこでオレは、アベに言った。




「いまはビールよりも、熱いお茶が一杯こわい……」









お後がよろしいようで……









(最後のオチがわからない人は、落語の『まんじゅうこわい』を聞いてください)