山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。
智(ち)に働けば角(かど)が立つ。
情(じょう)に棹(さお)させば流される。意地を通(とお)せば窮屈(きゅうくつ)だ。
とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高(こう)じると、安い所へ引き越したくなる。
どこへ越しても住みにくいと悟(さと)った時、詩が生れて、画(え)が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。
やはり向う三軒両隣(りょうどな)りにちらちらするただの人である。
ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。
あれば人でなしの国へ行くばかりだ。
人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
平安時代、京の都に鬼が出没して人を喰らったという。
鬼の実態は、都に住む人である。
鬼は人を襲わないのだ。
鬼は人を恐れて山に隠れ住んでいるのだから。
悪魔もまた人を殺さない。
楽になれよと声をかけるだけなのだ。
従わないからと、人を殺すのは神である。
人の敵は人。
人の敵は神。
ならば、ひとでなしでいいじゃないか。
悪魔のように生きてみないか。
巨椋修(おぐらおさむ)拝