「もう座り飽きた」
と、鎌倉の大仏さんは思った。
「なんでわしは、野ざらしで奈良の大仏は、屋根付きなんやねん!」
そう思うとムラムラと腹が立ってきたのだ。
そもそも、仏法の覚者というのは、テレパシー能力があるという。
まして、大仏ともなれば、その念力は普通の数千倍、数万倍といっても過言ではあるまい。
鎌倉の大仏の念は、全日本にあるその他の大仏にも伝わったのである。
そして日本の大仏のほとんどが、鎌倉の大仏と同様に、野ざらしなのである。
全日本の、奈良以外の大仏も、鎌倉の大仏に同調したのはいうまでもない。
「これは差別や! “笠地蔵”でさえ、笠があるのに、なんで我々は鳩のウンコまみれやねん!」
「みんなで、奈良の大仏を倒そう!」
「共闘せよ!」
「差別撤廃だ! これは平和のための戦いである! 若者よ銃をとれ!」
日本全国の大仏たちがわらわらと動き出した。
「きよったか……」
と、思ったのは奈良の大仏さんである。
それまで、片手はコインのマーク。片手は頂戴のマーク。
すなわち、「お金チョーダイ」のポーズをとり、パンチパーマにちょび髭というチンピラまがいの格好で、庶民どもよりお布施を巻き上げてきたこの大仏は、このままではヤバイと応援を頼むことにしたのだ。
なんといっても奈良の大仏さんは、日本の観光地に鎮座する大仏である。
猛烈な念波を世界の盟友に送ったのだ。
ニューヨークの自由の女神は、
「こら奈良の大仏さんの応援をしたらなあかんわ」
と、右手に持っていたアイスクリームをひと口で食べると、日本に向かってクロールで泳ぎ出すわ
リオデジャネイロの巨大イエスさんは、両手を広げたまま空を飛んで奈良を目指したのである。
その間……
古都奈良は、大勢の大仏たちに踏みにじられて壊滅状態になっていた。
奈良の大仏は孤軍奮闘。
さすがに強かったが、多勢に無勢である。
全身傷だらけになりながら、大阪城を破壊し、神戸を粉砕しながらもよく闘ったといえるだろう。
1時は、他の大仏たちに負けるかと思われたとき、ニューヨークの女神と、リオのイエスが到着し、なんとか五分五分となったのである。
さらにエジプトのスィンクスが到着したとき、事態は逆転し鎌倉の大仏勢は敗色が濃くなっていった、
「ちくしょー、あの梅毒の鼻もげ犬め〜」
と悪態をつきながら、鎌倉の大仏勢は、東へ東へと逃げた。
そのため、名古屋、横浜、東京は壊滅し、仙台で鎌倉勢は全滅した。
奈良の大仏さんは、女神やイエス、スフィンクスと共に勝どきを上げたのである。
「勝った」
と言ったのは、奈良の大仏さんであった。
「我々は平和を勝ち取ったのだ」
と、大仏、イエス、女神、スフィンクスたちはガッチリ握手をし、そしてげらげらと笑った。
そう思ったのも束の間であった。
「おどれ、極楽浄土へ行き去らせ!」
と、女神が、隠し持っていたソフトクリーム型ドリルで、大仏のはらわたをえぐったのである。
すかさず、イエスが、十字架型ナイフで大仏の心の蔵を突き立て、スフィンクスが、喉笛を噛み切った。
「な……、なんでじゃ……」
大仏が弱々しそうにつぶやいた。
女神が毒々しく言った。
「わほかわれ、ウチらも野ざらしで立ってんのや、座ってるスフィンクスも野ざらしじゃ、ボケがあ」
イエスが言った。
「おのれのような異教徒は、倒さなあかんのじゃ! わいの神さんだけが、絶対唯一の神さんなんやからな」
それを聞いた女神が怒った。
「なんやのアンタ、ウチにケンカ売る気ィかいな!」
スフィンクスも怒った。
「そうじゃ、だいたいおどれらクリスチャンが、アラブの石油に手ェだすから戦乱がおさまらんのじゃ」
「せやけどのう、スフィンクスよ。われの鼻を潰したんは、フランスのナッポレオンやで、このどぐされ女神は、フランスからアメリカに来たんやで」
「なんやのアンタら、ウチは自由の女神やで、どこで何しようと自由やないの!」
「じゃかあしい! こうなったら、おどれらまとめて、いてもたるで〜」
「あほんだらあが、やれるもんならやってみい!」
「わいは、平和の為ならば、核のボタンも平気で押すでえ!!」
そのとき、夕闇せまる山寺の小僧が、鐘をひとつ突いた。
ゴーンと鐘は鳴り、その鐘の音は永遠に鳴り止まなかったという。
人類と神々の愚かさをあざ笑うかのように……
(完)