オレが19歳の頃、知り合いの若者を集め。工事現場の“洗い”をしていたことがある。
“洗い”とは、新築の建売住宅等が完成直前になったとき、左官屋さんや、ペンキ屋さんが新築のお宅にもかかわらず、どうしてもガラスにシックイをこぼしていたり、ペンキを柱につけていたりするものなのだが、それをキレイに洗い落として、商品価値が下がらないようにする作業のことをいうのだ。
“洗い屋”グループのリーダーはオレであり、当時オレの愛車ヒュ−マ号をいう廃車同様の軽4輪車で仲間を拾い、1時間ほど走らせて、新築住宅街の現場で働くのである。
若いヤツらが1時間も車の中におしこめられていたら、なにをはじめるのか……
そう、バカ話のテンコ盛りが始まるのである。
それも……
即興で創作したバカ話をお互いに言い合うのだ。
もちろん、そうそう面白い話しを創作するのは難しいので、ときには、以前仕込んでおいた都市伝説や星新一の短編小説を適当にアレンジして披露することもある。
すると、1往復のあいだに4〜6話ほどの笑い話や怪談が聞けたものだ。
それはそうだろう。
あのころは、みんな仕事が終わったら、家に帰ってテレビも観ず酒も飲まずに次の日のネタあさりを、必死にやっていたくらいなのだから。
そんななか、印象に残っている話しがひとつある。
それが『喫茶ルパン』というお話しである。
はたしてこれは友人のオリジナルであるのか、ラジオやどこかの本に書いてあったものであったのは知らない。
とにかく次のようなお話しであった。
『近所にルパンという名前の喫茶店ができた。
しょぼくれた店であった。
亭主は、推理好き、怪盗ルパン好きの人物であるらしい。
興味がわいたひとりの若者が、思い切って“喫茶ルパン”に入っていった。
中から、ひとりの若い女の子が出てきた。
「何にいたしましょう?」
「そうですね。レモンスカッシュを……」
たちまち、女の子が顔が曇った。
「申し訳ございません。実はわたくしレモンスカッシュだけは作るのが苦手でございまして、少々おまちください、腕達者をお呼びいたします」
少女はパタパタを足音をのこして差っていった。
次にきたのは、老母である。
「おまたせしましたね。レモンスカッシュですね」
「はい、それにミックスサンドもつけてください」
すると老婆はわなわなと震え出した。
「ミックスサンドですか……、それはこの婆には荷が多すぎますわい。少々おまちを……」
次に少年がでてくる。
「お客さん、レモンスカッシュにミックスサンドだね」
「ああ頼むよ。あとはデザートにチーズケーキもな」
少年はぷるぷると震え出した。
「ごめんなさい。ぼくにはチーズケーキはムリだ……、マスター、マスター、お願いします」
おもむろに奥の部屋からでてきたマスタ−に向かって
「ここの喫茶店はなんだなヘンですね。従業員さんがずいぶん多いみたいですが、メニューはひとり一品しかできないみたいだ」
するとマスターがにやりを笑いながらいった。
「そうおもいますかな」
そういうと、マスターは手を顔のあごの下にもってくると、べりっとばかりに顔の皮をはずしたのだ。
と……
そこには、さっきの少年が……
さらにもう一枚皮があり、さらにはずすと、次は老婆が……
さらにはずすと最初の少女が……
そう……、すべてマスターが変身していたのである。
若者はいった。
「あ……あなたは一体?」
「はっはっはっ、わたしが喫茶ルパンの亭主、アルセーヌでございます」
若者は思った。
例え、みてくれはどんなにしょぼくれていても、あなどってはならないな……
と……』
てな、お話しであった。
おあとがよろしいようで……