ヨーロッパではギックリ腰を「魔女の一撃」というそうな。
わしがはじめて魔女の一撃を喰らったのは19歳のときであった。
そのときわしは現場仕事をしておったのである。
わしは比較的軽い材木を移動しようと、材木を持ち上げたそのとき!
ぴしりっ
と、腰に軽い痺れのようなものを感じたのである。
腰の痺れはやがて重たい感じに変化し、歩くのも困難になってしまったのである。
それがギックリ腰……、いな、わしは愛情をこめてギックリ腰を「ぎっくし腰」と呼びたい。
とにかくそれがぎっくし腰とのファーストコンタクトであった。
それから何度か軽いぎっくし腰にはなった。
しかし……
再び素敵な魔女っ子から鞭の一撃をもらったのは、それから10年近くたった日のことであった。
そのときわしは、空手の練習をしておった。
スパーリングの真っ最中、調子は絶好調。そのとき
ぴしりっ
と、魔女っ子の一撃をいただいたのである。
最初は大したことねーやと思い、スパーリングを続けようとしたのである。
しかし、たちまち腰は重く激痛に見舞われたのであった。
わしは練習を中止し、道場にたまたまいた鍼灸師の友人の方を借りて、家に帰ったのである。
家路に向かう途中、痛みはずんずんずんどこと増しに増して、家に帰った頃は、歩くもの困難なほどであった。
鍼灸師の友人に
「なんとかしてくださいよお」
とお願いすると
「ギックリ腰の場合、すぐに腰をいじるのはかえって状態を悪化させます。とりあえず1日は安静にしてください」
といわれ、ふとんでの正しい寝方をはじめいろいろとアドバイスいただいたき、友人は帰っていった。
さて、問題はここからである。
横になったはいいが、腰はおろか腕を動かしても激痛が走るのである。首を横に動かしても激痛である。
文字通り何にもできないのである。
ま……、まいった……
オレは激痛にこらえ必死の思いで、ふとんの横50センチの電話を手にすると、当時つきあっていた彼女にSOSを送ったのであった。
彼女が部屋につくまで約1時間かかる。
ま……、まずい……
尿意をもよおしてきた……
しかし体は動かない……
このままでは彼女にションベンまみれの姿をさらしてしまうことになる……!
オレは悲壮な覚悟で立ち上がろうとした。
立ち上がるまでに10分近くかかったであろう。なんといっても腕一本を動かしても、激痛なのだ。
オレは壁の桟につかまったりしながら、極力腰に負担をかけないように、にじりっにじりっと移動をし、なんとか排尿に成功した。
トイレまでの往復にマジで約30分もかかったのである。
やがて彼女は来てくれた。
そして食事の世話などをしてくれたのである。その姿はまるで
寝たきりのおじいさんの世話を焼く嫁そのものであった。
ひと段落つくと彼女がいった。
「ねえ、本当に動けないの?」
「動けない。少しでも動くと痛いのだ」
「フーン」
彼女の顔がまさしく魔女のように微笑んだ。
「例えばこんなことをしても動けないの?」
彼女はもうひとりのオレであるアナコンダ正宗をいじくりだしたのだ!
わしのアナコンダ正宗は斬れ味バツグン獰猛かつ果敢、こわいもの知らずのケダモノで、その猛毒は1?で一千万人の女性をたちどころに失神させるほどあったのだ。
しかしわしはそのアナコンダ正宗を充分飼いならしていたつもりであった。
「ふっ……、愚かな……、わしのアナコンダ正宗は、多少のことで動揺するような愚か者ではない。しっかりと調教しておるのだ」
しかし、アナコンダ正宗は、まだ若かった。親分のいうことを聞かない若い衆のようなものであった。
「ど……どうしたんだアナコンダ正宗!?」
「わしの言うことが聞けんのかアナコンダ正宗!?」
「よ……、よせっ、本当に痛いのだっ! 上に乗るのはやめてとめて!」
「ひ〜っ」
「ひ〜っ」
「ひ〜っ」
その結果わしは……
わしは陵辱されたのである!
しかも激痛に耐えながらな……
ばかーっ
アナコンダ正宗のばかーっ
わしはその日以来、アナコンダ正宗にさらなる鍛錬をして、極めて沈着冷静な動物へと訓練をしたのである。
おかげでいまはアナコンダ正宗は、いかなる事態であってもピクリとも動かない不動心を身につけたのである。
……
……
……
それってダメじゃん!